Vintage理論
ヴィンテージといえば、お酒の好きな人なら直ぐに「ワイン」を思い出すだろう。あのVintageに近い。 書棚に一冊の赤茶けた洋書がある。まだ筆者も妻も若い学生時代に妻から贈ってもらった本である。 その中の一章に経済成長のVintage理論があり、その後の筆者のものの考え方に少なからぬ影響を与えた本だと思っている。(但し、当時から酒飲みだった筆者はまだ貧しくて「ワイン」ではなくて焼酎しか飲んでいない。) Vintage理論は、経済学の新古典派理論の中で、労働の資本装備率と労働力の年代の違いに着目し、資本装備率や年代が異なると生産関数の形状、即ち生産性が異なり、労働分配率にも差異が生じてくるという理論であったと記憶している。 どの年代の労働者も、就業年数の増加に比例して労働生産性(対企業貢献度と読み替えてください。)が上昇するが、やがて頭打ちになります。横軸に就業年数を、縦軸に生産高を表わす図表で示すと、横に伸びたS字曲線で表わされます。 このS字曲線を生産関数というのですが、労働力の形成された年代によって生産高が異なるという前提で展開されるのが、Vintage理論です。世間でもよく言う、戦前・戦中派や団塊の世代や新人類の分類に近いかもしれません。 就業年数が同じであるならば各年代の労働生産性は、60年代の労働者<70年代の労働者<80年代の労働者、となります。そしてこれまでは、その人の勤める就業期間の各時点において、生産高が常に、60年代>70年代>80年代の労働者となっていたのです。従って若年者が年長者の生産高を凌駕することは無いと言う前提の下に、組織におけるヒエラルキーの頂点が年配者に帰する安定した組織形態が形成できてきたのです。 しかしこの前提は崩れる可能性があります。 情報技術革命の中で高い生産性を上げる若年層が高い生産高を上げる可能性が増しています。そうなると年功序列だけでは組織の安定性を保持できなくなるのです。組織の構成メンバーにとって、生産性も低く組織に対する寄与度も低い年長者を組織の頂点に置かねばならない理由が、ほとんど全くと言って良いほど無くなるからです。 勿論若年層が常に高い労働生産性を維持できるかといえば、組織に対する帰属意識の薄弱さ、組織よりも個の尊重、シラケといった現象が現れていますから、必ずしもその様にはならないかもしれません。 日経新聞に「使い物にならない」と揶揄され、平成10年度の国民生活白書に「経営者層から給料ほどには働いていないと認識」されている「団塊の世代」。 そしてまた同白書で「将来の所得と処遇を期待して最も低い所得伸び率」に甘んじてきたといわれる「団塊の世代」が取るべき戦略は、学習効果によるスキルのアップにより更なる生産性の増大を図れるように技能の向上に目を向ける必要があるというのが、妻から贈られたVintage理論の主張だったように思うのです。 掲載1999/12/12 |