グローバル・スタンダード

(Global Standard)

 GSと聞いて、厳しい競争にさらされているガソリンスタンドのことかと思う程度のど素人が「近い内に考えを整理しよう」等と書かなきゃ良かったと反省している。

 「地球規模の標準」と言えば、グリニッチ天文台の世界標準時間のこと程度しか思いつかないのだから、この項を見られた方には大変申し訳ない気持ちがする。

 企業間競争が世界規模で展開されると、一定のルールが必要になるであろう事は想像できる。では、どのような競争ルールを構築するのかというと、自分にとって最も有利なルールの確立を求めるのが当然だろう。

 ディベイト(debate)の好きなアメリカ人の考えそうなことだと思ったら、在日米国商工会議所のグロンディン氏は「グローバル・スタンダードという言葉は日本人がつくった。」と言う。何だこれは・・?。

 造語が創れるというのは優れた文化であるが、自ら作った造語に縛られて身動きできなくなっているとしたら、これほど滑稽な悲劇はない。過去に何度も外圧を語って日本の市場原理の変革を迫った事例があるが、今回もその類だろうか?

 「グローバル・スタンダード」という言葉は、ISO(International Organization for Standardization)を導入し始めた辺りから流行り始めたように思う。

 日本人の品質管理能力は優れて高いと思っているが、その能力をひけらかさなかったのは奥ゆかしい国民性があり、また市場原理が品質の良いものを求める方向に作用するから、敢えてひけらかす必要も無かったとも言える。

 ところが突然「貴方の会社の品質管理は?」と質問されて、「ISOを取得していない会社は信用できないので仕事は回されない。」と言われてしまったのでは有無も無くISOを取得せざるを得なくなる。

 格付会社やデュー・ディリジェンスもそうであるが、どれほどの知識を持っているか不確かな第三者機関が、最も自己の事業分野に対して知識を有しているその事業会社を査定することが出来るのかと言う疑問が付きまとうが、「本人の言うことよりも他人の評価の方が信用できる。」という風潮が強い以上、馬鹿げたコストがかかってもやむを得ないとするしかないのだろうか。

 無実の人間が自分の無実を証明することほど大変なことは無いのであるが、競合相手の体力をその部分で費消させることが出来るならば、世界戦略を展開する企業にとってまことに有利な状況となる。

 「ローマに入る者は、ローマ法を学べ。」という諺がある。「日本で商売をしたいと思ったら、日本の法に従え。」と言い直すこともできるが、入国者がグローバル・スタンダードを宣言すれば、「日本で商売したいので、日本の法を変えよ。」と迫ることが出来るのである。

 勿論内政干渉ではないかと思うのだが、そんなことを言おうものなら「日本の法を変えないのであれば、国際社会で商売するな。」と言う恫喝を裏面に秘めて宣言しているのだから、始末におえない。

 国際的な投資活動が行なわれると一定の基準で投資対象を分析できなければならない。資産の時価評価など国際会計基準の採用は当然と言うよりは、何故今まで実行に移されなかったのか不思議に思っている。バブル崩壊後の失われた10年。実行したくとも実行できなかったというのが実体だろう。

 更に日本の法律や仕組に遅れている部分もあるから、単純に実行に移すわけにも行かない。しかも島国の村意識があるから、自分を社長にまで引き上げてくれた前任者を非難したり、一人勝ちを良しとしない意識もある。その間隙を突かれた感がある。

 どの国でもその国の歴史と文化に裏打ちされて一つの国のシステムが成り立っていると考えると、日本の経営システムが全て劣っているわけではない。

 株主、顧客、従業員、協力会社、その他諸々の対境関係を円滑にコーディネートするのが、資本と経営が分離した時代の経営者の役割であると昔教わった。

 ところが、現代、「会社の浮沈がかかっているときに、従業員や協力会社の生活など面倒見ていられない。コーポレートガバナンスとは投資家に奉仕する経営者のこと。その程度のこともわからない人間は辞めてしまえ。」程度のことしか言えない人種が、日本企業の中堅層と経営者層に蔓延っているのではないかと思うことがある。

 日本国民の考え方が、グローバル・スタンダードになるために英語を母国語にするべきだと言う極端な意見を言う輩もいるが、単なる英単語を羅列する前に、その言葉の持つ意味・定義を定めて議論するのではない限り、不毛の議論が展開されることになる。そして筆者は未だにグローバル・スタンダードが判らないのである。

 グローバル・スタンダードについては、素人の筆者が書いた文章よりも兜x士通総研の米山秀隆主任研究員が「日本企業の技術開発戦略---重要性増す国際標準化戦略の役割」(pdfファイル)と題して発表している論文の方がはるかに判りやすいので、本稿を読んで頂いた読者に感謝し、ご紹介させて頂きます。

掲載2000/03/12、一部修正2000/05/14