利益相反行為

 当事者の間で利益が相反する行為のこと。

 当事者の一方の側にとって利益になることでも、他の一方においては不利益になる場合が日常経済活動では多々見られるが、利益相反行為と言う場合には、利益の対立する双方の立場を代理又は代表している状態をいい、多くの場合、禁止されている。

 例えば、祖父から相続を受けた未成年者の財産について親権者である親がその財産の譲渡を受けようとする場合、親と子の間では利益が相反している。親は極力低額で財産を取得しようと考えるかもしれないし、子の立場では、対抗すべき方法を見出せない可能性が高い。そのような場合、民法第826条は利益相反行為については「親権を行なう者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」と定め、それに違反した場合は民法第113条の無権代理に該当する。

 特別代理人を選定せずに親権者の名義になった不動産を購入した場合、親権者の手を離れた子供から売買無効の訴えがなされる可能性を否定できない。これを回避するには、不動産購入者は、親権者及び子供に対して親子間の売買が有効である旨の追認の催告を行なう必要がある。なお民法第114条で「ソノ期間内ニ確答ヲ為ササルトキハ追認ヲ拒絶シタ」ものとみなすと、規定しているので「便りのないのは良い知らせ。」などと、勝手に判断してはならない。

 同様の規定は商法にもあり、商法第265条で「取締役が会社の財産を譲り受け、或いは会社に自己の財産を譲渡し会社から金銭の貸付を受ける」場合などは、取締役会の承認を受けなければならないとある。但し取締役会の承認を受けると民法第108条の自己契約・双方代理の禁止条項は適用されない。

 利益相反行為で問題になると思われるのは、以上のような親権者や取締役の行為ではない。

 民法第108条の規定をもう一度読み直すと、「何人ト雖モ同一ノ法律行為ニ付キ其相手方ノ代理人ト為リ又ハ当事者双方ノ代理人ト為ルコトヲ得ス」とある。

 例えば特定資産の流動化にはじまる不動産投資信託において、当該SPCを運営するオリジネーターは、不動産管理会社や不動産仲介会社を保有しているのが日本においては一般的である。

 多数の投資家から資金を集めて運営するSPCは独立した法人格を有し、投資家への配当を最大化するように運営されるのが本来の趣旨であるが、それではオリジネーターにとって全く旨味がない。

 SPCが発注するであろう業務を全てオリジネーターの保有する不動産管理会社や仲介会社に発注し、或いはオリジネーターが他の賃貸不動産物件を有する場合には、良質のテナントは自分のビルに、問題のありそうなテナントはSPCに斡旋するかもしれない。

 オリジネーターにとって、SPCへの投資家は単なる資金提供者であって、当初の目標配当率さえ維持できればそれ以上の配当を投資家へ分配するよりも、自らの関連会社の収益に充当したいと考えないとは限らない。即ちSPCから関連会社に対する発注契約の名目を増やし、或いは単価を上げることによって、SPCの投資家に対する利益相反行為が行なわれやすい仕組が残されている。

 ここのところが、問題になりはしないかと考える。

 確かにオリジネーターの関連会社の方が、資産の維持管理を責任をもって遂行すると期待できる素地はある。しかし、だからと言って上記のような利益操作が行なわれないという保証はない。SPCの経営の透明性、公正性をどのように維持しようとするかが、日本版REITが根付くかどうかの試金石になる。

 経営陣にとって、物言わぬ株主・物言わぬ投資家ほど心地良い相手はいないのであるが、企業人の考え方としては歪な発想が内包されているように思うのは私だけだろうか?

掲載2000/05/06