特定資産の流動化

 「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」第2条第9項に規定があり、資産対応証券の発行によって得られる金銭で特定資産を取得し、当該資産の管理・処分によって得られる金銭によって資産対応証券の元本や金利・配当などを支払う一連の行為のこと。

 特定約束手形や特定社債券については、その債務の履行。

 優先出資証券については、利益の分配及び消却のための取得又は残余財産の分配。

掲載1999/9/19、10/3リンク追加


 金融機関や事業会社が、安定したキャッシュ・フローを生み出す多数の債権を、特定目的会社(SPC)や信託会社等に譲渡し、当該債権を担保に発行した証券を投資家に販売するなどして資本市場から直接資金を調達する手法として欧米で実施されている手法を、日本国内でも普及させようとするものである。

 上記の赤字の部分は正に債権譲渡であり、民法467条は「指名債権の譲渡は、債権者が確定日付のある証書をもって債務者に通知し、又は債務者が承諾しなければ、第三者に対抗できない。」と規定している。

 「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」は、SPCに出資や証券発行などで集まった資金で特定資産を購入すると定めているが、不動産の取得についてはその所在と不動産登記の有無及び登記日付の順位が、金銭債権の取得については債権の存在と確定日付による原債務者への通知に代わる対抗要件がどのように証明・整備されているかが明確にならなければ、職業機関投資家はともかくとして一般個人にとっては、非常に危険な事態を招来する可能性がある。

 「ハイリスク、ハイリターン」ならばまだしも、「ハイリスク、ノーリターン」になりかねない要素が払拭されていない以上、格付会社の情報を丸呑みするのではなく、自分の目で全ての資料を確認するくらいの(不可能をやり遂げるくらいの)意志が無ければ、かっての不動産抵当証券を悪用した詐欺事件の二の舞に遭遇しかねないと考える。

掲載1999/10/03


 上記で述べたように債権譲渡対抗要件について、なお法制化の必要性があったため、1998年「債権譲渡登記」の制度を制定し、登記によって第三者対抗要件を具備することとなった。

掲載2000/02/27


 特定資産の流動化で問題となる譲渡債権の対抗要件については以上で説明したように債権譲渡登記制度によって発行時点の不備が修復されたが、もう一方の問題として資産対応証券の購入者保護の問題がある。

 抵当証券や変額保険など配当利回りの高い金融商品はそれだけリスクを伴っていると考えるべきであるが、それらの金融商品がかって社会問題となったのは金融機関がそのリスクについて十分説明せず購入者に多くの期待を持たせて販売したことに起因している。

 政府は今国会に「金融商品の発行金融機関と販売者にリスク説明義務」を負わせる個人投資家保護の法案を提出し、説明義務違反者に損害賠償責任を科することとした。この法案が成立すると、晴れて「リスク金融商品購入者の自己責任」が明確化されることになる。多分、多くの金融機関は沢山の文字を印刷した「重要事項説明書」を作成して説明義務の履行を確実なものにするであろうが、リスクを内包した商品に投資する以上、筆者のような小市民はくれぐれも欲ボケしないように気を引き締めて署名捺印する必要がある。

 とはいえ、日本の金融経済取引もビッグ・バーンの中で、ようやく自己責任の世界に入ることになる。

 法案が成立すれば、これまでの様に泣き寝入りすることは無くなるだろうが、金融商品の販売者が説明義務を履行してさえいれば、ハイリスク金融商品の購入者は「無知なる被害者」として同情されることも無くなるということでもある。

 この法案が施行されると資産対応証券の発行時点の問題はほぼ解決し、REITのような多様な証券市場が日本にも形成されると考えられるが、REIT自体のM&Aも最近の米国で起こっているようである。

 投資の対象が不動産である以上、皆がハッピーになれるのは地本主義の世界か調整インフレが起こっている世界だけが享受できる仕組であることを忘れてはならない。

 そして残る問題は、集団投資活動(=会社型投資信託)の仕組作りと発行された証券の償還時点の確実性の確保の問題へと推移する。

掲載2000/03/19


 日本公認会計士協会は、2000年5月31日、「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」の公開草案を発表した。

 その論点は、筆者が倒産隔離の項で触れた「SPCへの資産の譲渡が適正であったかどうかが問われることがある。」という問題を、譲渡人の立場で明確にしようとするものである。

 不動産所有者がSPCに当該不動産を譲渡した後も、不動産の値下がり・収入減・再処分困難・SPCの倒産など様々なリスクについて負担する約束があって、そのリスク負担割合が5%以上に該当する場合には、当該不動産の譲渡は無かったものとし、単なる金銭借入手段として証券化したものとして会計処理を行なうとする。

 特定資産の流動化は3つの面で発生している。一つは金融機関の不動産事業への融資の極端な忌避制限により直接金融への道を模索する動きであり、もう一つは不動産開発の規模が大きく一部の金融機関だけでは必要資金を供給しきれないという面、3つ目はフィー・ビジネスを狙う金融機関と資金不足の不動産保有会社と小金を持っている投資家の同床異夢の思惑である。

 通常の会社が株式や社債を発行するのと現象においては同じなのだが、動機において不純さを感じるのが「特定資産の流動化」である。

 不動産の譲渡者は「なりふり構わず金が欲しい」、一方証券の購入者は「金は出すけどリスクは負いたくない」。そこで将来リスクが発生したら不動産の譲渡者が責任を負うという一札を入れることになる。

 この仕組と発想はデュー・デリジェンスの項で触れた日本人の島国・村意識の現われである。買った以上は買った人間が責任を負うべきであり、高く売り付けたいが為に無いものを有ると言い在るものを無いと言い包める愚挙は戒めるべきである。

 日本公認会計士協会の草案は、そのような動機の不純さの一部を取り除くことになると期待できる。

掲載2000/06/04