倒産隔離

(Bankruptcy Remoteness)

 資金調達を必要とする主体である会社が倒産してしまった際に、証券化商品が引き当てにしていた対象資産が、その会社の更正管財人や債権者に差押さえられてると、高い格付を取ったABSが結局倒産会社の影響を受けてしまう。

 このようなことがことが起こらないように、資金の調達主体である会社(オリジネーター)から倒産リスクを隔離してやるような工夫のこと。

掲載1999/10/31


 資金の調達主体である会社(オリジネーター)がその保有する特定債権や特定資産の流動化を図るために特定目的会社(SPC)を設立してSPCに資産を譲渡し、そのSPCがその資産を小口証券化して証券を売却した後に、オリジネーターが倒産した場合に、SPCへの資産の譲渡が適正であったかどうかが問われることがある。

 その第一は、オリジネーターが保有していた債権や資産の所有権が適正にSPCに譲渡されたものであるかどうかという問題である。適正な価額で真正な譲渡であったかどうかである。

 単にオリジネーターが行なう担保借入行為の延長線上にある場合には、オリジネーターが倒産した時に、SPCが保有する債権や資産の所有権がその破産管財人や債権者から否認され、差押さえられてしまうことになる。それを避けるためには、債権譲渡対抗要件を備える必要があり、債権譲渡登記や不動産の所有権移転登記がなされる必要がある。

 第二は、オリジネーターがその債権者を害することを知りながら行なった行為である場合に、破産管財人が行使できる民法第424条の詐害行為取消権の対象になるかどうかという問題である。

 オリジネーターが債務超過に陥っている場合の資産の処分は、破産法第72条の規定で詐害行為に認定される可能性が高い。但し、破産法第84条で「破産宣告ノ日ヨリ1年前ニ為シタル行為ハ支払停止ノ事実ヲ知リタルコトヲ理由トシテ之ヲ否認スルコトヲ得ス」とあるので、破産宣告を受ける1年と1日以上以前に為された処分には及ばない。

 第三は、オリジネーターとSPCは同一の法人であるとする法人格同一性の法理に基づく否認である。

 通常、SPCは全てがペーパーカンパニーであって、少ないとは言え資本金はオリジネーターが出しており、SPCの役員もオリジネーターが出している。しかもSPCが証券化した不動産の管理業務やサービサー業務もオリジネーター乃至はその関連会社が行なっている。更には劣後債権をオリジネーターが引き取り、将来の証券償還時の資産買取保証を出している場合も多い。SPCに対する支配権がオリジネーターにある状態では、同一法人の業務部門が違うだけでオリジネーターとSPCの実体は同一法人であるから、オリジネーターが倒産した場合にはSPCの保有する財産が破産管財人や債権者から差押さえられる可能性が高い。

 倒産隔離を実効性あるものにしようとすると、SPCの独立性をどのように維持できるかが問題となるが、その一つの方法がチャリタブル・トラストの活用である。

掲載2000/02/27